「そういえば、うちの会社の決算書にも『役員貸付金』って項目があったな…」
「急な支払いで、ちょっと会社から立て替えてもらっただけ。いつか返せばいいと思っていたけど…」
「逆に、会社の資金が足りなくて、社長である自分が補填した『役員借入金』もあるな…」
前回の記事で、「公私混同を避けるための会計・経理の鉄壁ルール」についてお話しした際、このように自社の決算書を思い浮かべた社長様もいらっしゃるのではないでしょうか。
社長と会社の距離が近い中小企業において、「社長貸付金(会社から社長へのお金の貸し付け)」や「社長借入金(社長から会社へのお金の貸し付け)」が発生してしまうことは、決して珍しいことではありません。
しかし、この一見すると単純な「貸し借り」が、実は会社の信用を蝕み、予期せぬ税金の爆弾を抱え、最悪の場合、社長の相続時にご家族を苦しめる…そんな“静かな時限爆弾”と化している可能性を、あなたはご存知でしょうか?
「大げさな…」と思われた社長様、どうかこの先を読み進めてください。
今回は、この決算書上の“要注意科目”である「社長貸付金・借入金」を放置しておくことの本当の怖さと、その時限爆弾を安全に解除するための具体的な「整理・解消法」について、専門家の視点から分かりやすく解説します。
この記事は、あなたの会社の財務を健全化し、「W資産最大化」戦略を加速させるための、非常に重要なステップとなるはずです。
最も危険な時限爆弾!「社長貸付金」を放置してはいけない5つの深刻なリスク
まずは、特に問題が大きい「社長貸付金」から見ていきましょう。これを放置すると、以下のような深刻な事態を招きかねません。
- リスク①:税務署に「役員賞与」と認定され、追徴課税の嵐!
これが最大のリスクです。長期間返済されなかったり、契約書がなかったりする貸付金は、税務署から「実質的な役員賞与(給与)」とみなされる可能性があります。その場合…- 会社側: 損金として認められず、法人税の追徴課税が発生。
- 社長個人側: 給与所得として、所得税・住民税の追徴課税が発生。
まさに、会社と個人へのダブルパンチです。ある日突然、数百万円、数千万円の納税通知が届く…なんてこともあり得るのです。
- リスク②:銀行からの信用ガタ落ち!「融資ストップ」の引き金に!
金融機関は、融資審査の際に「社長貸付金」の項目を非常に厳しくチェックします。なぜなら、これは「社長に資金を流用しないと回らない、規律のない会社(=公私混同が激しい)」あるいは「社長の個人的な資金繰りが厳しいのでは?」という危険信号と受け取られるからです。結果として、新規融資を断られたり、既存融資の借換えを拒否されたりと、会社の生命線である資金調達の道が絶たれる可能性があります。 - リスク③:会社のキャッシュフローを確実に圧迫!
会計上は「資産」として計上されていますが、実態はどうでしょうか? 会社から見れば、それは回収見込みの薄い「不良債権」です。その金額分、会社の運転資金が社外に流出し、有効に活用されていない状態なのです。会社の成長機会を奪っていると言っても過言ではありません。 - リスク④:「適正な利息」の計上が必要!余計な税金と手間が発生!
会社は、社長から適正な利率で利息を受け取る必要があります。もし利息を受け取っていない場合、その利息相当額が「役員賞与」と認定されるリスクがあります。また、受け取った利息は会社の収益(益金)となるため、法人税の課税対象となります。 - リスク⑤:相続時に最悪の事態!回収できない“資産”に相続税が…!
社長が亡くなった場合、この「社長貸付金」は、社長の「会社に対する債権」として、相続財産に含まれます。つまり、ご家族は、会社から回収できるかどうかわからないお金に対して、高額な相続税を支払わなければならないという、非常に理不尽な事態に陥る可能性があるのです。
いかがでしょうか。「いつか返せばいい」では済まされない、恐ろしいリスクが潜んでいることをお分かりいただけたかと思います。
「社長借入金」なら安心?いえ、これも放置は禁物です!
「じゃあ、社長が会社にお金を貸している『社長借入金』は問題ないの?」
確かに、社長貸付金ほどのリスクはありません。しかし、これも決して健全な状態とは言えません。
- 財務体質が悪く見える: 決算書上、負債が増えるため、自己資本比率が悪化し、金融機関からの評価が下がる可能性があります。
- 相続時のトラブルの火種に: 社長が亡くなった場合、この借入金は社長の「会社に対する債権」として相続財産になります。相続人(例えば、事業を継がないご兄弟など)が、会社に対して「父が貸したお金を返してください」と返済を求めてきたら…? 円満な事業承継の大きな障害となり得ます。
「時限爆弾」を解除せよ!社長貸付金・借入金の具体的な整理・解消法
放置すればするほど問題が深刻化する社長貸付金・借入金。しかし、ご安心ください。正しい知識と計画的なアプローチで、必ず整理・解消することができます。
- 【貸付金の解消法①:王道】役員報酬や役員賞与から計画的に返済する
社長の手取りを(税・社会保険料負担を考慮した上で)最適化し、その中から計画的に会社へ返済していく方法です。時間はかかりますが、最も着実で健全な方法です。 - 【貸付金の解消法②:最終手段】役員退職金と相殺する
社長が退職する際に、支給される役員退職金と貸付金を相殺する方法です。税制上非常に有利な「退職所得控除」を活用できるため、税負担を抑えやすいというメリットがあります。ただし、退職金規程の整備や計画的な原資の準備が不可欠です。 - 【借入金の解消法③】債務免除を受ける(会社に利益が出ている場合)
社長が会社への債権(貸しているお金)を放棄する方法です。会社側は、その金額が「債務免除益」という利益として計上され、法人税の対象となります。会社の繰越欠損金と相殺できる場合などに有効です。 - 【借入金の解消法④】DES(デット・エクイティ・スワップ)で財務改善
社長の会社に対する貸付金(債務:Debt)を、会社の資本金(株式:Equity)に振り替える(交換:Swap)方法です。これにより、会社の負債が減り、自己資本が増えるため、財務体質が劇的に改善し、金融機関からの評価も高まります。ただし、法務・税務上の専門的な手続きが必要です。
どの方法が最適かは、会社の財務状況、利益水準、社長個人の資産状況、将来の事業承継計画などによって全く異なります。自己判断は非常に危険です。
まとめ:決算書の“要注意科目”を見つけたら、今すぐ専門家にご相談を!
社長貸付金・借入金は、会社の健康状態を示すバロメーターのようなものです。その金額が大きい、あるいは長期間変動がない場合、それは会社のお金の流れに何らかの問題が潜んでいるサインかもしれません。
決算書にこの科目を見つけたら、決して「見て見ぬふり」をしないでください。
それは、会社と社長、そして大切なご家族の未来を守るための、重要なターニングポイントです。
私たち総合資産戦略コンサルタントは、顧問税理士の先生方とも緊密に連携しながら、
- 貴社の財務状況を詳細に分析し、貸付金・借入金がもたらすリスクを明確化
- 上記のような解消法の中から、貴社にとって最も有利で現実的なシナリオを複数シミュレーション
- その実行計画の策定から、具体的な手続きまでをトータルで伴走支援
いたします。
「静かな時限爆弾」を安全に解除し、クリーンで力強い財務体質を手に入れることで、初めて「会社と個人のW資産最大化」への道が拓けます。
その第一歩を、私たちと一緒に踏み出しませんか?